理学療法士(PT)として数年働いていると、「このままでいいのだろうか」と立ち止まる瞬間が訪れることがあります。国家資格を持ち、患者さんの回復に直接関わるやりがいのある仕事でありながら、現場には理想と現実のギャップが存在するのも事実です。
特に30代〜40代に差し掛かる頃、仕事のスキルはある程度身についたものの、給与・働き方・人間関係・体力の限界など、様々な壁に直面するようになります。そして、結婚や育児、親の介護といったライフステージの変化により、「今の働き方で本当にいいのか?」と真剣に考えるようになる方も少なくありません。
また近年では、理学療法士のキャリアは病院勤務だけにとどまりません。訪問リハや企業内の産業リハ、フィットネス業界への転身など、多様な選択肢が広がってきており、より自分に合った働き方を模索する人が増えています。
この記事では、理学療法士が転職を考える主な理由を5つの視点から丁寧に解説していきます。同じような悩みを抱える方にとって、自分の未来を考えるヒントになれば幸いです。
この記事で分かる4つのポイント
- 理学療法士が転職を考えやすいリアルな職場環境の課題
- 理学療法士の収入や将来に対する不安と、他職種との待遇ギャップ
- キャリアアップや専門分野への挑戦が転職理由になる背景
- 結婚・育児・介護などライフステージに合わせた働き方の必要性
職場環境の不満(人間関係・残業・体力)
理学療法士が転職を考える理由として、まず多いのが「職場環境」への不満です。
特に人間関係に悩む人は多く、医師や看護師との連携がうまくいかない、同僚との関係がぎくしゃくしているといった声が多く聞かれます。医療・介護現場は人間関係の密度が高く、チーム医療が基本であるため、信頼関係が崩れると大きなストレス要因になります。
また、業務量の割に人手が不足している施設も多く、定時で帰れない、休憩がしっかり取れないといった過酷な労働環境も問題です。加えて、リハビリは立ち仕事・移動・患者対応が中心となるため、体力的な負担が大きいのも特徴です。特に30代後半以降になると、体調不良や腰痛、疲労の蓄積に悩まされるケースも増えてきます。
こうした環境が続くと、「このまま今の職場で働き続けられるのか?」と将来に対する不安が芽生え、転職という選択肢が現実味を帯びてくるのです。
収入への不満と将来への不安
理学療法士は国家資格であり、一定の専門性を持つ職業ですが、給与水準は決して高くありません。特に新卒から数年の間は年収300万円台で頭打ちになりやすく、昇給も緩やかです。また、役職が限られているため、長く勤めても給与が大きく伸びないケースが多いのが実情です。
そのため、「このまま働いていても生活に余裕が持てない」「将来、家庭を支えていけるか不安」と感じる方も少なくありません。特に結婚や子育て、住宅購入といったライフイベントを意識する年代になると、収入への関心が高まります。
また、年金制度の先行きが不透明な中で、老後の備えとしての資産形成や副業を考える人も増えています。しかし、今の職場では副業が禁止されている、スキルアップの機会がないなど、現状に限界を感じて転職を検討するきっかけになります。年収アップや副業可能な職場、成果報酬型の働き方を求めて、動き出す理学療法士が増えているのです。
理学療法士の平均収入
年収 | 月収 | ボーナス | |
理学療法士 | 432.5万円 | 30.1万円 | 71.4万円 |
全産業 | 506.9万円 | 34.7万円 | 90.9万円 |
勤務先による差:大病院・クリニック・介護施設・訪問リハなど勤務先で収入差があり、訪問リハビリは高収入傾向。
地域差も大きい:都市部はやや高め、地方はやや低めの傾向。
開業・転職でアップも可能:条件交渉やスキル次第で年収600万円以上も可能。
理学療法士の年代別平均年収
年代 | 平均年収(税込) | 備考 |
---|---|---|
20代前半 | 342万円 | 新卒〜3年目。病院や施設での基本給が中心。 |
20代後半 | 387万円 | 経験を積むことで昇給。主任補佐などの役職も。 |
30代前半 | 421万円 | 中堅クラス。指導役や教育担当になることも。 |
30代後半 | 458万円 | 管理業務やリーダー職なども増えてくる。 |
40代前半 | 471万円 | 管理職や訪問リハへのシフトで収入アップも狙える |
40代後半 | 505万円 | 組織内でのポジション確立。副部長・責任者級も |
50代前半 | 497万円 | 管理職が多く、施設長・部門責任者なども増える。 |
50代後半 | 589万円 | 管理職継続か、後進育成や業務整理にシフト。 |
60代前半 | 524万円 | 嘱託勤務や週休3日など、働き方を調整しながら勤務。 |
60代後半以降 | 307万円 | 非常勤・パート勤務が中心。年収は下がる傾向。 |
- 40〜50代前半はキャリアのピーク。役職手当や訪問リハで年収600万円近くになるケースもあります。
- 50代後半以降はポジションによって収入に差が出やすくなります(管理職のままか現場復帰か)。
- 60代以降は再雇用・非常勤で勤務時間が短くなり、年収も下がる傾向。
キャリアアップや専門性を求めて
理学療法士として働き続ける中で、「このままでいいのか」と感じる瞬間は誰にでも訪れます。とくに同じような症例や業務の繰り返しでスキルの伸びを感じられなくなった時、多くの人がキャリアアップの必要性を感じ始めます。より専門的な分野に進むことで治療の幅を広げたい、認定資格を活かした働き方がしたいという想いが転職につながることもあります。
たとえば、「スポーツ分野で活躍したい」「訪問リハに特化したい」「脳卒中リハのエキスパートになりたい」といった明確な目標がある場合、今の職場ではその道が開けないと感じることも。こうしたキャリアビジョンを実現するために、より専門性の高い現場や教育体制の整った職場へと転職する人が増えています。
また、大学院に進学して研究職や教育職を目指す場合、一度職場を離れる必要があるケースも。転職は、単に職場を変えるだけでなく、「理学療法士としての成長」を見据えたステップアップの手段にもなっているのです。
ライフステージの変化(結婚・育児)
理学療法士としてのキャリアを重ねていく中で、結婚や出産、育児といったライフイベントが転職の大きなきっかけになることがあります。たとえば、共働きで家事や育児を分担する必要がある場合、土日出勤やシフト勤務、残業の多さが家庭との両立を難しくします。こうした状況では、より柔軟な働き方ができる職場を求めて転職を考えるようになります。
また、子どもの送り迎えや病気の際の対応など、家庭優先のスケジュールが必要になる中で、職場の理解度や制度の整備状況は非常に重要です。「育児休暇が取りづらい」「時短勤務が実質的に使えない」といった声も多く、働き方を見直すために転職する理学療法士も少なくありません。
一方で、親の介護や家族の事情など、男性理学療法士にとってもワークライフバランスを意識した転職が増えています。自宅から近い職場、時短勤務可能な施設、訪問リハビリのように時間調整がしやすい現場など、ライフスタイルに合った職場を選び直す動きが広がっています。
他職種との比較から感じるギャップ
理学療法士として数年働くと、他職種との待遇やキャリアの違いに気づき、モチベーションが下がることがあります。たとえば、作業療法士(OT)や言語聴覚士(ST)と比べて業務負担が大きいのに、給与水準が変わらない、あるいは低いと感じる場面もあります。また、看護師や薬剤師といった医療職と比較しても、収入や昇進の幅が限られていると感じる人が多いです。
さらに、理学療法士は国家資格であるにもかかわらず、「資格に対する社会的評価が低い」と感じる人も。実際、年収や福利厚生の面では、一般企業の会社員と比べても見劣りするケースが多々あります。このような現実に直面したとき、「もっと条件の良い職種・職場があるのでは?」という疑問が生まれ、転職を検討するようになります。
近年では、企業で働く産業理学療法士や、パーソナルトレーナー、医療系ベンチャー企業への転職など、異なるキャリアパスを選ぶ人も出てきています。他職種との比較から、自分の可能性を広げたいという前向きな理由で転職に踏み切るケースも少なくありません。
まとめ:辞めたいと考える時こそ「人生を豊かにするためのステップ」

理学療法士が転職を考える背景には、単なる「不満」だけでなく、より良い未来を求める前向きな意志が込められています。人間関係や体力的負担、収入への不安といった現実的な課題に直面する中で、多くの理学療法士が自分らしい働き方を模索し始めています。また、キャリアアップを目指して専門性を追求したい、ライフスタイルに合わせた働き方にシフトしたいといった理由も大きな転職動機の一つです。
他職種との待遇差や社会的評価のギャップに気づいた時、自分の価値を再認識し、より高い報酬ややりがいを求めて新しい環境に挑戦するのは、決して間違いではありません。むしろ、理学療法士としての人生をより豊かにするための自然なステップです。
これから転職を考えている方は、まずは自分自身の本音と向き合い、「なぜ転職したいのか」「どんな働き方を実現したいのか」を明確にすることが大切です。その上で、転職エージェントや求人情報をうまく活用しながら、自分にとってベストな選択を見つけていきましょう。
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