ボルダリングは全身を使ったダイナミックで楽しいスポーツ。しかし、その反面、体への負荷も大きく、正しい知識や準備がないとケガのリスクが高まります。特に初心者や久しぶりに登る人は、「つい無理をしてしまう」「登り方に癖がある」「ケアを怠る」といった理由から、指・肩・腰・膝などを痛めてしまうケースが少なくありません。
本記事では、ボルダリング中によくあるケガの種類や、その原因・症状の特徴、日頃からできる具体的な予防法までを詳しく解説します。楽しく安全にボルダリングを続けるためにも、ケガを未然に防ぐためのポイントをしっかり押さえておきましょう。
- ボルダリングで起こりやすい代表的なケガの種類と原因
- ケガを予防するための事前・事後のケア方法
- 正しいフォームと適切な登り方の大切さ
- 道具選びや登る頻度など“ケガを防ぐための工夫”
ボルダリングで起こりやすいケガとその原因

- 指・前腕の腱鞘炎・靭帯損傷
- 肩関節の脱臼・インピンジメント症候群
- 膝や足首の捻挫・着地時の衝撃トラブル
- 腰や背中の張り・筋肉痛・ぎっくり腰
- 皮膚の裂傷・摩擦によるダメージ
指・前腕の腱鞘炎・靭帯損傷
ボルダリングで最も酷使される部位のひとつが「指」と「前腕」です。ホールドをつかむ、保持するという動作を繰り返すうちに、腱や靭帯に過剰な負担がかかります。特に初心者に多いのが、グリップ力に頼りすぎてしまい、無理に握り続けることで起こる「腱鞘炎」や「靭帯の損傷」です。
「腱鞘炎」は、腱を包む鞘(さや)の部分に炎症が起き、動かすたびに痛みや違和感を伴います。悪化すると、指を曲げたり伸ばしたりするだけで激痛が走ることも。一方、靭帯損傷は急激な負荷によって断裂や伸びが発生し、長期間のリハビリを要するケースもあります。
予防の基本は「ウォーミングアップ」と「適切なフォーム」です。登る前には指・前腕をしっかり温めるストレッチを行い、ホールドを強く握りすぎず、腕全体を使ってバランスよく力を分散することが重要。また、疲労を感じたら無理せず休憩を入れ、連登を控えるのも有効です。
「握力だけに頼らない登り方」を意識することで、指への負担は大幅に軽減されます。指は一度痛めると回復に時間がかかるため、初期段階からの意識づけがダメージ予防の鍵となります。
肩関節の脱臼・インピンジメント症候群
ボルダリングでは、腕を大きく広げたり、壁にぶら下がるような動作を繰り返すため、「肩関節」にも大きな負担がかかります。特に注意したいのが「肩の脱臼」と「インピンジメント症候群」です。
肩関節は可動域が広い反面、構造的に非常に不安定な関節です。無理なフォームで壁にしがみついたり、強引な引き動作をしたりすると、関節がずれてしまい「脱臼」や「サブリュクゼーション(亜脱臼)」を引き起こす可能性があります。
「インピンジメント症候群」は、肩の腱や筋肉が骨とこすれて炎症を起こす症状です。肩を上げるとズキッと痛む、違和感があるといった初期症状を見逃してしまうと、慢性的な障害へとつながるおそれがあります。
予防策としては、肩周りのインナーマッスル(ローテーターカフ)を鍛えておくことが重要です。これは肩を安定させる小さな筋肉群で、ダンベルやチューブを使った軽めのエクササイズで強化可能です。
加えて、無理な動作や「勢い任せのムーブ」は避け、しっかりと体幹や脚の力も使って登るフォームを身につけることが、肩のケガを防ぐ第一歩になります。肩は一度傷めると長期の回復が必要になるため、日頃から意識的にケアしていきましょう。
膝や足首の捻挫・着地時の衝撃トラブル

ボルダリングは壁を登る競技ですが、登った後の「降りる・着地する」動作も、同じくらい重要です。実際、多くのケガが発生するのはこの“降りる瞬間”です。特に「膝」や「足首」の捻挫、打撲、靭帯損傷といったトラブルが多く報告されています。
着地の際、マットを敷いているとはいえ、タイミングがずれたり姿勢が崩れたりすれば、体重の衝撃が一点に集中してしまい、関節に大きな負担がかかります。特にボルダリング初心者にありがちなのが「飛び降りて着地する」習慣。これが膝や足首のトラブルの主な原因となります。
足を踏み外すケースも注意が必要です。ホールドから滑ったり、次の一手に集中しすぎて足の位置が不安定になると、バランスを崩して着地に失敗する危険性が高まります。足首の靭帯を損傷すると、しばらく運動ができなくなるばかりか、再発のリスクも高くなります。
予防のためには、まず「着地の基本」を身につけることが大切です。膝をしっかり曲げて衝撃を吸収し、両足で均等に着地することを心がけましょう。マットの中央に降りる意識も重要です。
また、足首まわりの筋肉や腱を強化するトレーニング(カーフレイズやバランスボードなど)を取り入れると、衝撃への耐性も向上します。柔軟性を保つためのストレッチも日常的に行い、ケガを未然に防ぎましょう。
腰や背中の張り・筋肉痛・ぎっくり腰
ボルダリングは見た目以上に全身を使うスポーツで、特に「腰」や「背中」にかかる負荷は想像以上です。壁を登る際には、手足だけでなく体幹をしっかりと使ってバランスを保ち、重心をコントロールする必要があります。その結果、腰回りや背中の筋肉が常に緊張し、張りや筋肉痛、さらにはぎっくり腰のリスクに繋がります。
初心者の場合、体幹が弱かったり、柔軟性が不十分であることで、筋肉への負担が過剰になります。また、無理に体をひねったり、力任せに動作を続けることで、筋繊維や腰の関節にダメージが蓄積されやすくなります。特に「ぎっくり腰(急性腰痛症)」は、不意の動作や、登攀中の中途半端なねじれが引き金になりやすいので注意が必要です。
これらのケガを防ぐには、まず「ウォーミングアップの徹底」が何より重要です。軽いストレッチやジョギング、特に腰回り・背中・体幹をほぐす動的ストレッチ(体を動かしながらの柔軟)を行うことで、筋肉や関節を動きやすくしてから登り始めましょう。
また、普段から体幹トレーニング(プランク、ヒップリフトなど)を取り入れることで、登攀中の姿勢安定性が高まり、無理な力みを避けることができます。疲労が蓄積しているときは無理をせず、登る頻度や強度をコントロールすることも大切です。
皮膚の裂傷・摩擦によるダメージ
ボルダリングでは、ホールドを掴む・擦るといった動作を繰り返すため、手のひらや指先を中心に皮膚へのダメージが蓄積されやすくなります。特に初心者や登攀頻度の高いクライマーは、「擦り傷」「めくれ」「マメ」「裂傷」などの皮膚トラブルに悩まされがちです。
ホールドの表面は素材によってザラついていたり、エッジが鋭かったりするため、強く握ったり滑ったりしたときに摩擦で皮膚が削れてしまいます。また、乾燥した状態や、汗をかいた状態ではさらに滑りやすくなり、それを補うために余計な力を入れることで傷を深めてしまうこともあります。
こうしたトラブルを防ぐには、まず「手のケア」が欠かせません。クライミング前には手の皮脂や汗を抑えるためにチョークを適切に使い、登った後は保湿クリームやハンドバームで皮膚をしっかりとケアしましょう。また、マメや裂け目ができたときには無理に続けず、専用のテーピングや保護フィルムを使って早期に治すことが大切です。
練習量が増えてきたら、指先の角質を適度に整える「ケア用ヤスリ」や「爪切り」などのメンテナンス道具を持つのもおすすめです。角質が硬くなりすぎても割れやすくなり、柔らかすぎても擦れに弱くなるため、バランスが重要です。
また、登るグレードやホールドの形状に応じて、「握り方を工夫する」「無駄な力を抜く」といったテクニックも皮膚保護につながります。技術の向上はケガ予防の第一歩です。
ボルダリングは楽しい反面、皮膚という最前線の“装備”を酷使するスポーツ。だからこそ、毎回の登攀後のケアを「トレーニングの一部」として取り入れる意識が、長く続けられる秘訣になります。
ボルダリングでのケガを予防する5つのポイント

- 登る前のウォームアップ&ストレッチの重要性
- 正しいフォームと無理のないムーブを意識する
- 登りすぎない・休憩を入れる“回復”の意識
- 適切なシューズ・チョークなど道具選びの工夫
- 登ったあとのクールダウンとセルフケア
登る前のウォームアップ&ストレッチの重要性
ボルダリングは一見、軽いスポーツのように思われがちですが、実際には全身の筋肉と関節をフルに使うハードな運動です。そのため、いきなり壁に取りつくのは非常に危険。登る前のウォームアップとストレッチは、ケガ予防の基本中の基本です。
ウォームアップの目的は、筋肉や関節を温め、血流を促進すること。これにより可動域が広がり、スムーズで無理のない動作が可能になります。例えば、ラジオ体操のように、肩回し、手首・足首の回旋運動などを5〜10分行うだけでも、身体の準備が整います。
続いてストレッチでは、特に指・前腕・肩・背中・腰・股関節・太ももを中心に動的ストレッチを取り入れるのがおすすめです。静的ストレッチ(いわゆる伸ばし続けるタイプ)は、クールダウン時に行い、ウォームアップ時は反動を使わない“動きのあるストレッチ”を意識しましょう。
これらを怠ると、筋肉が硬いまま急に無理な動きをしてしまい、腱鞘炎や肉離れ、関節のねんざを引き起こすリスクが高まります。たった10分の準備が、長く安全にボルダリングを楽しむ土台となります。
正しいフォームと無理のないムーブを意識する
ボルダリングは、力任せに登れば良いというものではありません。むしろ重要なのは「フォームの正確さ」と「無理のない動作」です。ケガの多くは、誤ったフォームや、自分のレベルを超えた動きに挑戦したときに起こります。
特に初心者に多いのが「腕だけで登る」動き方。これでは前腕に過剰な負荷がかかり、腱鞘炎や筋疲労の原因になります。また、肩をすくめた状態で登る癖がつくと、インピンジメント症候群や肩の脱臼といった深刻な障害につながることも。
そのため、ボルダリングジムではスタッフや上級者のアドバイスを積極的に聞き、自分の動きを確認しながら登ることが大切です。特に「体幹を使って重心を壁に近づける」「脚で押し上げる」「両手両足で安定を取る」といった基本ができているかを意識しましょう。
また、無理なムーブ(動作)は極力避け、届かないホールドはジャンプで無理に掴みに行かず、諦める判断も大切です。安全なムーブは、技術力と経験値を高めるうえでも重要な要素となります。
登りすぎない・休憩を入れる“回復”の意識

ボルダリングは熱中しやすいスポーツです。特に課題(コース)に挑戦していると、何度も繰り返しトライしたくなり、つい無理をしてしまう方も少なくありません。しかし、ケガの多くは「オーバーユース(使いすぎ)」によって起こるもの。登りすぎは、筋肉や関節に負担をかけ、慢性的な痛みやケガの原因になります。
特に、指・前腕・肩・膝・足首といった関節周りは酷使されやすく、短期間に集中して登りすぎると、腱鞘炎や捻挫、関節痛といった症状が現れます。そのため、休憩の取り方や頻度の管理はとても重要です。
たとえば「1課題ごとに1〜2分の休憩」「1時間ごとに10〜15分のインターバル」を意識し、登りっぱなしを避けましょう。また、週に何度登るかも重要。初心者なら週1〜2回から始め、体の様子を見ながら頻度を上げるのが理想です。
筋肉は、トレーニングで破壊され、休息によって回復・成長します。登ることだけに集中せず、“回復もトレーニングの一部”と捉える意識が、結果的にケガを防ぎ、上達を早める近道になります。
適切なシューズ・チョークなど道具選びの工夫
ボルダリングでは、自分の身体の使い方はもちろんですが、「道具」の選び方もケガ予防に大きく関わってきます。特に重要なのがクライミングシューズとチョークです。
クライミングシューズは、足の指先を細かく使うため、ジャストサイズのものを選ぶ必要があります。大きすぎるとホールドに力を伝えられず、踏み外しや滑落の原因に。逆に小さすぎると足を圧迫し、痛みや外反母趾、爪の損傷につながるリスクがあります。
チョークも軽視できません。手汗で滑ると、ホールドから手が外れやすくなり、落下の危険性が高まります。自分の手に合ったタイプ(粉、液体など)を使い、滑りを防ぐことで安全性が向上します。
さらに、ジムによってはシューズのレンタル品が用意されていますが、足に合っていないことも多いため、継続的にボルダリングを楽しみたいなら、早めに自分専用の道具を用意するのがおすすめです。
道具は「身体の一部」として考えることが大切。フィット感と使いやすさにこだわることで、ケガのリスクを大きく減らすことができます。
登ったあとのクールダウンとセルフケア
ボルダリング後の“締め”として大切なのが、クールダウンとセルフケアです。これを怠ると、筋肉の疲労が蓄積され、次回のトレーニング時にケガをしやすくなります。
クールダウンでは、軽くストレッチを行って心拍数を落ち着かせます。特に酷使した部位(前腕・肩・背中・腰・脚など)は、ゆっくり時間をかけて伸ばすことが重要。筋肉に溜まった疲労物質を流し、血流を促進することで、筋肉痛や張りを軽減できます。
また、自宅に戻ってからのケアも効果的です。例えば、フォームローラーでの筋膜リリース、温めたタオルを当てる温熱療法、軽いストレッチやマッサージなどが挙げられます。
さらに、プロテインやBCAAなどの栄養補給も、回復を助けるうえで有効。運動後30分以内に摂取することで、筋修復がスムーズに進み、疲労回復が早まります。
「登ったら終わり」ではなく、「登ったあとのケアまでが1セット」と捉える意識が、ボルダリングライフを長く、安全に楽しむカギになります。
まとめ:安全に楽しく続けるために“登れる体”と“ケガ予防”の意識を

ボルダリングは全身を使うダイナミックなスポーツである一方、特有のケガやトラブルも少なくありません。指や肩の故障、着地ミスによる足首の捻挫、腰の痛みや皮膚トラブルなど、適切な対策を取らなければ、思わぬ長期離脱や再起不能のケガにつながる可能性もあります。
そこで大切なのが、「ケガをしてから対処する」のではなく、「ケガを未然に防ぐ」という予防の視点です。登る前のウォームアップから、フォームの意識、休憩や道具の選び方、登った後のクールダウンまで、すべてがケガ予防の一環。これらを“習慣化”することで、ボルダリングのパフォーマンスも自然と向上していきます。
また、無理なムーブに挑戦しすぎないこと、疲れたらしっかり休むことも忘れずに。自分の体と対話しながら、無理のないペースで続けていくことが、上達の近道であり、安全に楽しむための最大のコツです。
ボルダリングを「一時の趣味」ではなく「長く続けられるライフワーク」にするために、日々のケアと予防をしっかり取り入れて、登れる体と心を作っていきましょう。
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