朝の通勤電車。吊り革を握る手に、じんわりと疲れが滲んでいる。
佐伯浩司、40歳。都内の中堅商社で課長職についている。
若手たちのキラキラした会話が耳に入る。「副業が〜」「起業が〜」──眩しすぎて、ため息が出た。
ふとスマホを見ると、保育園から「お子さんが発熱しました」の連絡。最近、妻とのすれ違いも増えている。
「努力しても、何も変わらない…」
佐伯は、そんな思いを飲み込みながら、今日も会社へ向かう。
「この企画、もっとインパクト出してよ」
上司の無茶な要求に、頭を抱える。
一方で、部下たちはどこか他人事のようだ。
自分が動かなければ、何も進まない。
それでも、誰かを責めたくはなかった。
深夜、オフィスに一人残り、部下が作った資料を一枚一枚、手直ししていく。
誰にも気づかれない、誰にも褒められない。それでも、手を止めることはできなかった。
数週間後、プレゼン本番の日。
佐伯は一歩引いて、壇上に立つ若手社員たちを見守っていた。
彼らは堂々と企画を説明し、クライアントの顔がほころんでいく。
プロジェクトは成功だった。
打ち上げの席で、ひとりの部下がビールを片手に言った。
「佐伯さんが、あの時サポートしてくれたからですよ。本当に、ありがとうございます。」
一瞬、何かが胸に込み上げた。
あの日々は、無駄じゃなかった。誰かの役に立ててたんだ──。
帰り道、夜空を見上げる。
星は見えない。でも、見えないからこそ、そこにあることを信じられる。
「よし……明日も、頑張るか!!」
佐伯は小さく笑い、コートのポケットに手を突っ込んで、また歩き出した。
毎日、誰にも気づかれない小さな努力を積み重ねる。
それは、すぐに結果が出ないし、ときに意味がないように感じるかもしれない。
けれど、
「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただ一つの道。」(元プロ野球選手 イチロー)
あなたが今日も積み重ねた一歩は、確実に未来へ続いています。
大丈夫、あなたは間違っていない。
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